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くいどうらく
食道楽
村井 弦斎
春の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页
と挨拶より先にその事を問う。妻君その様子の劇てたるを笑い「ハイ来てお在です、モシお登和さん」と振返りて呼びけるにお登和も詮方なく座敷へ入りしが心に憚る事ありけん、余所余所しく大原に黙礼せしのみ。なるたけ遠く離れて坐を占めたり。大原は昨日の御馳走にてズット親しくなりし量見「お登和さん昨日は誠に御馳走さま。僕は昨日のお礼にお登和さんへ差上げたいと思って半襟を持って来ましたが今中川さんへ寄ったら此方へおいでだということで急いで遣って来ました。これがその半襟で」と恭しく風呂敷包を取りて包み紙の折れぬよう大切そうに披き、大奉書に大水引のかかりたるを取出したるが大熨斗の先の斜めに折れたるを手にて撫で展ばし「お登和さん失礼ですけれども」と勿体らしく差出たり。お登和はいよいよ気味が悪し「イイエそんなものを戴きましては」と辞退して受けそうもなし。妻君大原の様子がおかしきに堪えねど笑うにも笑われず「お登和さん、折角のお土産ですから」と大原のために言葉を添ゆる。大原はお登和嬢が謙遜して受けぬと思い「中川さんにも今そう申して来ました。お受け下さらんと僕の志が無になります。