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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

春の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页

青空文庫

妻君「マサカ半襟一つを六十までかけられましょうか。折角のお土産ですけれどもこれは一旦お引込ませになって外の良いのとお取かえなすったらいいでしょう」と忠告されて大原は面目なく「そう致しましょう。今度は貴女に見立て戴いて上等のを買いましょう。お登和さん御勘免なさって下さい、とんだ物を持って来て相済みません」と今更詫びても追付かず。お登和は半襟を貰いたくもなし、この品を引かえられて再び上等の物を貰いなばかえって迷惑と「イイエこれで沢山です。貴君のお志を戴くのですから半襟はこれで結構です。私がかけませんでも外に用る処が沢山あります。折角のお思召ですからこれを戴きましょう」と婆さん向の半襟を我手元へ引寄ぬ。大原は今の一言が何より有難し「僕の志を受けて下さるとは忝い。僕は半襟を差上げるのが目的でありません、僕の志を知って戴きたいのです」と漸く元気我に還りぬ。妻君耐えかねて遂に吹出し「とかくお話がトンチンカンでよっぽど妙ですね。大原さん、私は今お登和さんに教えて戴いてお芋料理を致しましたから一つ差上ましょうか。お茶菓子にもちょうどいい者がありますよ」大原「お登和さんのお料理とあれば何でも頂戴します。