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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

春の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页

青空文庫

第二十六 名物

大原「強いてイヤとも言うまいなんぞは甚だ心細い。それでは一つ貴女から中川君にそう言って下さいませんか。是非お登和さんを大原に遣れと無理にも説き付けて下さいませんか」妻君「それは私よりも良人が帰りましたらば良人に言わせた方がいいでしょう。お友達同士ですから小山が中川さんに御相談したら中川さんも早く御承知なさいましょう」大原「なるほどごもっとも。小山君は何時頃お帰りでしょう」妻君「晩までには戻ります。暮の二十八日に出かけたのですから今日は必ず帰ります」大原「早くお帰りになればいい。何だか待遠ですな。僕は新橋まで迎いに行きましょうか」と心のみ頻りに急がるる。

第二十六 名物

夕暮に及びて当家の主人は旅先より帰り来りぬ。待兼ねたるは妻君よりも客の大原、早く我が頼み事を言出さんと思えども主人の小山携え来れる大荷物を披くに忙しくて大原にまで手伝いを頼み「大原君、君もそっちの縄を釈いてくれ給え、僕は今度到る処の名物を買い込んで来たよ。最初先ず三島から豆相鉄道へ乗かえて修善寺の温泉へ往ったが修善寺名物の椎茸を沢山買って来た。しかるに椎茸の産地へ行って初めて驚いた事がある。