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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
丁度その時、マッチの軸がまだ燃え切らぬ内に、非常に変なことが起った。
「兄さん、ちょっと、あれ動いてやしない? ネ、動いてるわね」
妙子のゾッとする様な囁き声に、一同例の洞穴を見ると、ゆれる焔のせいではない。確かに、着物を着た源次郎の骸骨が動いている。
「アッ、こちらへ歩いて来る。アレー」
妙子の悲鳴に、男たちもギョッとして立上った。
骸骨は断末魔の苦悶の姿をそのまま、洞穴を出て、一歩二歩と歩くともなく漂うともなく、こちらへ近づいて来る。幻覚ではない。凝り固った五十年の妄執が、生命なき髑髏を歩かせたのであろうか。
一同はそれを見ると、余りの不思議さ、物凄さに、思わずタジタジとあとじさりをしたが、その途端、二郎の指の力がぬけて、まだ燃えているマッチが床に落ちた。
と同時に、ボッという恐ろしい音がしたかと思うと、部屋の中が真昼の様に明るくなった。
床に落ち散っていたフイルムに火が移ったのだ。
小型とは云え、十数巻のフイルムが、映写したまま、鉋屑の山の様に放り出してあった。それが瞬く内に燃え尽す光景は、形容も出来ないすさまじさであった。
狭い密室内は、むせ返る煙の渦に満たされ、螺線形のフイルムを燃え走る火焔は、のたうち廻る無数の真赤な蛇だ。