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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
悪夢
ただそれ丈けのことです。でも、これが偶然の出来事でしょうか。船の中に蛇がいたのも変です。しかもその蛇が、あいつが息を引取ると同時に、血のりの中から湧出す様に、姿を現わしたのは決してただ事でありません。若しやあの蛇が、死体から抜け出した奴の執念深い怨霊なのではあるまいかと思うと、笑って下さい、僕は何かに身を縛られた様になって、立ちすくんだまま動けなくなってしまったのです」
聞いていた波越警部も、その小蛇が、背筋を這ってでもいる様に、ゾッと気味悪くなって来た。
彼等は両人とも、怪談を信じる様な、古風な人間ではなかった。それにも拘らず、何か物の怪に襲われた様な、異様な戦慄を感じたのは何故であったか。若しや、この小蛇こそ、明智が想像した通り、怪賊魔術師が、死を以てこの世に送り出した、復讐の魔虫ではなかったのであろうか。
悪夢
だが、兎に角事件は落着した。あれ程世間を騒がせた怪賊魔術師も、遂に自滅してしまった。八人の部下(船中で捕えた七人と、月島海岸にころがっていた一人)は、悉く収監された。賊の娘の文代は、明智に味方し、実の親を捕縛させた苦衷をめで、いずれは無罪放免と極っていても、一応未決監に収容せられた。