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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
そして、蛇も、その人がいなくなると見えぬ様になってしまいました」
「ハハハハハハ、まるで石川五右衛門の忍術だね。鼠の代りに蛇を使って」
案の定、一郎がお茶を入れた。
だが、善太郎氏は笑えなかった。忍術と聞くと一層変な気持になった。
若しや奥村源造はまだ生きているのではあるまいか。船の中で死んだのも、共同墓地へ埋葬せられたのも、彼の所謂魔術ではなかったのか。死んだと見せかけ、どこかに潜伏していて、ほとぼりのさめた今頃又姿を現わし始めたのではあるまいか。若し生きているとしたら、あいつは蛇の忍術だって使いかねぬ怪物だ。とそんなことまで考えた。
それから一郎二郎の兄弟や、書生達に命じて、家中隈なく捜索させたが、角力取りみたいな奴は勿論、小豆色の小蛇も、どこにも姿を見せなかった。
「お父さん、気になさることはありませんよ。夢です。妙子が夢を見たのですよ」
一郎に云われると、成程そうかとも思うので、善太郎氏は警察沙汰にする様なこともなく、その日はそのまま済んでしまったが、二三日たった夜のこと、又しても恐ろしいことが起った。しかも今度は、当の善太郎氏が襲われたのだ。