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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

ズッシリと重い一物だ。

彼は鎌首をもたげて(それが夢の中の蛇とソックリの格好に見えた)その方を眺めた。眺めたかと思うと、今度こそは、本当に「ギャッ」と絞め殺される様な悲鳴を上げた。妙子の場合と同じだ。掛蒲団のシーツの上に、小豆色のまだら蛇が、とぐろを巻いていたのである。

善太郎氏が飛び起ると、蛇は床を這って素早く逃げてしまった。と同時に、黒い影が(なんとそれが出羽ヶ嶽みたいな巨人だったではないか)スーッとドアの外へ姿を消した。あとになって考えて見ると、その大入道は、さい前から、部屋の隅で、善太郎氏の寝姿をじっと見守っていたらしいのだ。

それから起ったことは、妙子の場合と全く同じであった。蛇も角力取りも、煙の様に消え去って、どこを探しても、影さえなかった。

ただ違っている点は、角力取りの消え去ったあとに一枚の紙切れが落ちていたことだ。

しかもゾッとしたことには、その紙切れには「奥村源造」と、簡単ながら、非常に恐ろしい四文字が書きつけてあった。怨霊は彼の名札を残して行ったのだ。

奇中の奇

遂にこのことが警察沙汰になった。明智小五郎も再び事件の依頼を受けた。