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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

警察も裁判所も世間も怖くはないが、君はちと苦手なんだ。俺は君がどんな男だか知っている。君なれば俺の仕事の邪魔が出来るということを知っている。問題は権力や武器や人数ではない。智力だ。残念ながら君の智力が恐ろしいのだ。そこで、少々お気の毒だが、恨みも何もない君を、こうして監禁した次第さ。だが、俺は使命を果す外に、人の命をあやめ度くない。俺は殺人魔じゃない。だから君も、じっとおとなしくしていてさえ呉れれば、充分歓待はする積りだ。暫くの辛抱だ。頼みだ。じっとしていて呉れ」

道化面は昂奮に筋張り、厚い白粉を通して、顔面が真赤に上気しているのが見える程であった。決して嘘を云っているのではないことが分る。

「いつまで?」

明智は冷然として聞き返した。

「一ヶ月、長く見積って一ヶ月だ。どうかその間ここにじっとしていてくれ」

「なんだって。一ヶ月だって。じゃあ貴様は、福田氏の外にも……」

「そうなんだ。俺の相手はあの男一人ではないのだ。だから君に頼むのだ。どうか俺の使命を果たさせてくれ」

「イヤだ」明智は駄々子の様に云い放った「仮令君の使命が、君にとってどんなに正当なものであるにもせよ、今の世に私刑を許すことは出来ない。