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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
まさか、まさか、そんなことが……」
と言葉をにごして、いくら尋ねても、それ以上を語らなかった。
さてある日のことである。玉村二郎は東京の友人の所へ気ばらしに話しに出かけて、昼過ぎ頃大森の邸へ帰ったのだが、門を這入って、植込み越しにヒョイと庭を見ると、そこに変なものを発見した。
植込みの向う側は広い砂場になっていて、テニスコートやブランコなどがあるのだが、そこの地面に、大きな8という数字が幾つも書き並べてある。棒切れか何かで書いたものであろう。ひどく拙い字だ。
何でもないことだ。誰かのいたずらに極っている。だが、その何でもないことが、二郎青年には、特別の意味を以て迫って来るのだ。福田氏の死を予告したのもこんな数字だったと思うと、何かしらゾッとしないではいられなかった。
彼はそのまま立去ることが出来ず、枝折戸を開いて庭へ這入って行った。8の字は砂場の真中から、一間程の距離を置いて、点々と西洋館の向側へ続いている。
二郎はフラフラとその怪文字をたどって歩いて行く。洋館の角を曲ると、向うに進一少年が、地面に蹲って、釘の様なもので節十何番目かの8の字を書いている所だ。