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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

「進ちゃん、なぜそんな8の字ばかり書いているんだい」

「アア、小父さん」進一はびっくりして振向いた。

「こうして八八六十四書いて置くといいことがあるんだって」

「誰に教わったの」

「よその小父さんが、そう云ったよ」

二郎青年は何故という事もなくハッとした。

「どこで!」

「今、そこで、門の所で」

「どんな人だったい」

「年寄の小父さんよ、洋服を着ていた」

まさか、これが、福田氏の場合と同じ恐ろしい予告だとは思われぬ。だが、その年寄の小父さんというのは、一体全体何物であろう。又、何の為にそんな馬鹿馬鹿しいことを教えたのであろう。

彼は悪夢に襲われた様な変な気持で、洋館の自分の書斎へ這入った。窓から庭を見ると、進一少年は飽きもしないで根気よく8の字を書き続けている。

そこへ裏手の方から、音吉という最近雇入れた庭掃除の爺やがやって来るのが見えた。彼は股になった木の枝にゴムをしばりつけた手製のパチンコを持っている。

「坊ちゃん、いいもの上げようかね」

音さんがニコニコして進一に声をかける。

「ナアニ、爺や」

「パチンコって云うのですよ。知ってますか」

「どうするの?」

「鳥でも何でも打てるのです。