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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
御幣を額へ押しあてた。
が、その時沼の岸づたいに、一団の人影嵐のように、こっちに向かって殺到して来た。
眷族たちは騒ぎ出した。
「飛天夜叉だ!」
「飛天夜叉組だ!」
姥は凝然と突っ立った。
「打たれた! ……先手を! ……また打たれた! ……飛天夜叉組じゃ! ……いかにもそうじゃ! ……こうなっては法も祈祷も! ……間に合わない! 間に合わない! ……どうしようぞ、範覚範覚!」
見る見る飛天夜叉の一団は、距離間近く迫って来た。
「範覚範覚範覚ヨ――ッ」
大竹藪をうしろにとり、鬼火の姥の眷族の、四つの死骸を足もとに置き、眷族の一人から奪ったらしい、血にぬれた太刀を右手に持ち、それを頭上にふり冠り、左の手に青竹の杖を持ち、幽鬼さながらに構えている、盲目の頼春を向こうに廻し、金地院範覚は金剛杖を、八相に構えて睨んでいた。
好色で残忍でヨタで駄弁で、懦弱にさえ見える範覚ではあったが、その実「棒」の一手にかけては、鬼神をあざむく使い手で、金環金筋で堅固に作った、金剛杖の一薙ぎは、利刃よりも凄く鉄才棒よりも、恐ろしい力を持っているのであった。
がその範覚が杖を構えたまま、進みもしなければ打ってもかからず、じっといつまでも静まっているのは、いったいどうしたというのだろう?