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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

頬からかけて頤の辺まで、刀傷のある男が云った。

「噂にだけは聞いているよ」

両足ともかくも揃ってはいるが、左の足がどういう加減か、発育不完全で竹のように細い、そういう不具者の五十男が云った。

「なんでも盲人だということだな」

「うん」

と刀傷の男が云った。

「俺は一度だけ逢ったことがある。盲人だよ、凄い盲人だ」

「むやみと人を斬るそうだが?」

「うん、むやみと斬るそうだ。……昔はそうでもなかったそうだが。……そうだ昔はその男の行く手を、変に遮って邪魔などすると、怒って斬ったということだが……今じゃアむやみと斬るそうだ」

「狂人だよ! 殺人狂さ!」

吐き出すようにこう云ったのは乳飲み子を膝へかかえ上げ、胸もとをひろげて乳房を出し、それを含ませている二十八、九の、痩せさらばえた女乞食であった。

「その狂人の人鬼でも、この可愛い子供を見たら、――この子供はずいぶん可愛いわね――殺生の気持ちなどなくなしてしまって、仏心になるだろうよ」

「駄目だよ」

と刀傷のある男が云った。

「その男は盲人なのだからな、子供を見せたって見えやアしないよ」

「では私は抱かせてやろう。その盲目の狂人にあったら、この可愛い子を抱かせてやろう」