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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
でも彼女は布をかかげて、前方を見ようとはしなかった。
(誰も見たくない、何物も見たくない!)
足音は馬酔木の叢を巡って、今まで彼女たちの一団がいた、その方角へ行くようであった。
不意に女の悲鳴が起こった。
つづいて嬰児の泣き声が聞こえた。
「おや」
と早瀬は呟いたが、何がなしに気にかかり、声のした方へ小走って行った。
元いた辺まで走って来た。
つまずいたので足を止めた。
布の裾からわずかに見える、地面の視界の一所に、咽喉をえぐられた女乞食の、その死骸の咽喉の一部と、乳房をあらわした胸の一部と、その胸の上へ乳房を求めて、這い上がって来た嬰児の顔とが、化物絵のように見えていた。
「まあ」
と早瀬は思わず叫び、ベタベタと地上へ坐ってしまった。
「殺されている! ……咽喉をえぐられて! ……では……」
と云ったが黙ってしまった。
しかし彼女の心の眼には、盲目の殺人狂の恐ろしい姿が、持っているという竹の杖と共に、――一度も見たことのない相手なのではあったが……想像によって映し出されていた。
(咒う! 私は、その男を咒う!)
早瀬はしばらく動かなかった。
嬰児がはげしく泣き出した。