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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
「袈裟太郎や」
と桂子は云った。
「お前の早い歩き方で、京の二条の館へ行き、小次郎にすぐにここへ来るように、そう伝言しておくれ」
「かしこまりましてございます」
袈裟太郎は引っこんだ。
一日五十里は走るという、その袈裟太郎の風のような姿が、夜の比叡山の裏山の木の間を、やがて京の方へ走って行くのが見られた。
桂子は筆を運ばせて行った。
高殿の欄干には姫が一人
湖水の小船には武士が一人
と、不意に歌声が聞こえて来た。
浮藻の歌っている歌声であった。ムラムラと桂子の胸の中へ、嫉妬と憎悪との思いが湧いた。
(小次郎がここへ来ることを知って、浮藻め心をソワツカせ出したわ!)
こう思ったからである。
浮藻が小次郎を恋していることは、数年前からのことであった。小次郎の方でも浮藻を愛し、恋していることも数年前からで、桂子は自分が小次郎に対し、恋の想いをかけなかった頃には、むしろ二人のあどけない恋の保護者であり、誘導者でさえあったが、自分が小次郎を焼きつくばかりに、恋するようになってからは、浮藻と小次郎との恋仲が、嫉ましいものの代表となった。
(浮藻さえなくば! 浮藻さえなくば!)