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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

こんな恐ろしい考えをさえ、浮藻に対して持つことさえあった。

(浮藻さえこの世にいなかったら、小次郎の心はひたむきに、わたしに向かってくるだろうに!)

とはいえ桂子はさすがにこれまでは、抑えに抑え、隠しに隠し、この感情を浮藻に対し、露骨にあらわしはしなかった。

ただそれとなく監視して、二人を一緒に置かないよう、二人を二人だけで話させないよう、掣肘するだけに止どめておいた。

そうして彼女は小次郎に対しても、これまで一度も自分の恋心を、うちあけて語りもしなかった。

これもひたすら抑えに抑え、隠しに隠していたのであった。

見交わす瞳は恋の焔

来ませ来ませと呼び合う声

また歌声が聞こえて来た。

「おのれ!」

と桂子は筆を捨てて立った。

(見交わす瞳は恋の焔! おおおお、おのれらの瞳ではないか! ……来ませ来ませと呼び合う声! ……おのれこの姉にあてつける気か!)

身を顫わせ歯を噛んだ。

丈なす髪が搖れて乱れ、蓬のように顔へかかった。

その顔の蒼さ物凄さ!

短檠の火が裾を照らし、床に引いている長い部分や、腰のあたりまでを玉虫色にしたが、肩のあたりは朦朧とぼけ、天井の闇に融けそうに見えた。