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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
が、顔だけは夕顔の花か、芙蓉の花のように白く抽んで、それが歌声の聞こえて来る方へ――庭の方へ向けられた。
すさまじい姿に驚いたのであろう、猩々卯ノ丸は颯と立つと、傍らの楓の木へかけ上がった。
と、どうだろう、その時までは、いるとも見えず静まって、彼らの王なる卯ノ丸の動作を、凝視していた数百の猿猴が、八方の木々の枝葉の間で、嵐のように啼き出した。
彼らが揺するそのためでもあろう、木々は騒立ち軋り合い、にわかに山々谷々に、颪が吹くかと想われた。
が、卯ノ丸がまた静かに、楓の木の叉に蹲居して、桂子の様子を見守り出すと、猿猴の群れも啼き声をとどめ、木々の枝葉の間から、蛍火のような眼の光を、無数に点々と闇にともし、彼らの王を見守り出した。
その時、
「お姉様」
と呼びながら、館を巡って妹の浮藻が、浮き浮きと庭先へはいって来た。
「まだご写経でございますか」
――桂子はツカツカと庭へ下りた。手にはいつかしら白磨きの、握り太の如意をひっさげていた。
あらそう姉妹
「浮藻!」
と、桂子は声をかけた。
何んとない姉の殺気立った様子と、鋭い声とに驚いて、浮藻は楓の根もとに佇み、返辞もしないで息を呑んだ。