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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
と呟いて立ち止まった。
陽焼けした顔色はセピアのようであり、頬は落ちくぼんで剃いだようであった。盲目の眼は瞼で蔽われ、黒い隈が暈のように輪どっていた。これが頼春の顔であった。昔の俤などどこにもなかった。
肩は落ち胸はくぼみ、背は曲がり腰はくくれ、全身枝のように痩せていた。昔の俤などどこにもなかった。これが頼春の姿であった。
(今日も人二人殺したっけ)
それを頼春は考え出した。
(一人はどうやら女らしかった)
(女を殺したのは今日がはじめてだ)
彼は持っている竹の杖を、一尺ばかり持ち上げた。
それでグッと突く真似をした。
床にあたって音を立てた。
(柔らかく、ねばっこく、暖たかくさえ、杖の先から腕を通し、全身にまでも感じられたっけ! ……悲鳴! ……そいつさえ男ののと異って、グ――ッと胸へ響いたっけ!)
(女を殺したのははじめてだ!)
何かしら血を湧かせ、何かしら心を踊らせ、何かしらゾクゾクさせるものを、女性殺戮から彼は感じられた。
「悪くなかった」
と呟いた。
流浪の旅へ出て数年になる。
その間彼は一度として、女に接したことはなかった。
それを今日女を殺したことによって、間接ながらも接したのであった。