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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

近くの丘には櫨の叢が、のように紅葉し、その裾には野菊や竜胆の花が、秋の陽を浴びて咲いていた。

不意に横から声がかかった。

「小次郎様愉快ですか?」

小次郎は吃驚してそっちを見た。

二十三四の美しい女が、いつの間にどこから来たものか、彼の横に坐っていた。

「愉快でないです」

と小次郎は云った。

「それほどの美貌を持ちながら、愉快でないとは変ですね」

「何を厭なことをおっしゃるんです」

「年はたしか二十歳でしたね」

「どうしてそんなことをご存知なので?」

「妾は何んでも知っているのです」

その女は微妙に笑った。

顔の筋肉は笑っているが、眼だけは決して笑っていないと、そう云ったような笑い方なのである。

「美濃の名族土岐蔵人頼春、このお方の一族で、学問も武芸もお出来になるが、美貌が祟って身がもてない、それに気が弱くて感情ばかり劇しい、その上に徹底した放浪性の持ち主、そこで何をしても満足しない。することもなくボンヤリしておられる。――というのがあなたのお身の上でしょうね」

「どうしてそんなことまでご存知なのです?」

「わたしは何んでも知っているのです」

またその女は例の笑いを笑った。