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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

谷間の人々

が、そういう一団を、遠景のように向こうに眺めて、こんな林には珍らしい、大銀杏の木の根もとの辺りに、小次郎と浮藻とを前に据え、鬼火の姥と範覚とが、黙然として立っていた。

と、

「小次郎や」

と、姥が云った。

「わたしが誰だかお解りかえ?」

それは桂子の声であった。

「小次郎様、浮藻様」

と、金地院範覚がつづいて云った。

「わたくしがおわかりでござりまするかな?」

風見の袈裟太郎の声であった。

「小次郎とも浮藻とも、別れなければならない時節が来たよ」

桂子の声は咽ぶようであった。

谷間の人々

三人の男が手をつないで、その周囲を廻っても、まだ余りはしないだろうかと、そんなにも太い銀杏の幹で、月光は完全に遮られ、闇のようになっているその中に、顔を見られるのを恥じながら、でも自分では相手の顔を、これが見納めといったように、食い入るように見詰めながら、桂子は云いつづけた。

「どうしているかと案じていたに、でもよく無事に帰って来たねえ。……いろいろ苦労をしたことと思うよ。……せっかく帰って来たお前たちなのだから、本来なればわたしとしては、早速館へつれ帰り、これまでどおり一緒に住みたいのだが、でももうそれは出来なくなったよ。