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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
(笠置の城が陥落して、大塔宮様が赤坂の城へ、遁がれてお入り遊ばされたそうな。この御方にお眼にかかり、許すとのお言葉承わりたいばかりに、生きているような自分なのだが、はいったが最後出ることの出来ない、ここの住居へ来た以上、望みは絶えたというものだ! ……では俺は部屋から一歩も出まい!)
それで彼は出ないのであった。
盲目の身の燈火はいらず、部屋の中はほとんど闇であったが、金網をかけた火鉢があって、そこで炭火が盛んに熾っていて、その余光で頼春のこけた頬と、窪んでいる眼との寂しい顔が、赤くポッと見えていた。
不意に廊下から悲鳴が起こり、人の仆れる音が聞こえた。
素早く巻軸を懐中へ入れ、傍を放さない竹の杖を取ると、頼春は立ち上がり、ソロソロと引き戸をひきあけた。
そのほとんど鼻の先を掠めて、丈高い白布が裾を引き、垂直に立ちユラユラと揺れ、廊下を一方へ辷って行き、その後方に近習らしい武士が気絶して仆れていた。
(女が俺の前を通って行く)
頼春はそう思った。
盲目なるがゆえに気絶している武士も、生ける白布の辷って行く姿も、かいくれ認めることが出来ず、盲目になって以来鋭い感覚が、いよいよ鋭く磨ぎ澄まされた、それによって女が通って行くと、かえって真相を識ったのであった。