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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
また嬰児の泣き声が聞こえた。
(行ってみよう、思い切って!)
頼春は廊下へ出、泣き声の聞こえる方へ足を運んだ。
それは白布の行く方角であつた。
廊下が鉤の手に曲がっていて、それを曲がって左へ行けば、広い中庭へ出ることが出来る。
白布と頼春とはそっちへ進んだ。
中庭にお長屋が立っていて、その一軒の窓に向いた部屋に、膝に嬰児を抱きながら、早瀬がうなだれて坐っていた。
(お月様でも見せてやったら、この子たいがい泣きやむかもしれない)
ふと、早瀬はこう思い、立ち上がって次の間へ出、土間へ下りて戸をあけた。
望を過ごした月の光が、すぐの足もとまで射して来ていた。
胸に嬰児を抱きながら、顔に依然として白布を下げた、姑獲鳥のような早瀬の姿は、やがて煙りか寒冷紗のような、月光の中へさまよい出た。
足もとを見詰め、物思いに耽けり、あたりなど見ようとしない彼女だったので、彼女の背後から白布の柱と、竹の杖を持った盲目の男とが、ひっそりと歩いて来ることなどには、気が付こうとはしなかった。
植え込みの少ない中庭ではあったが、桧の木ぐらいは立っていた。
頼春の姿があらわれた時、その葉の茂みから巨大な獣が、雪の塊りのように落ちて来て、頼春の背後から従った。