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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

活躰解剖

「今夜は用心しなければいけない。変な者が入り込んだらしいぞ」

活躰解剖

「姥よ、何んだ、変なものとは?」

例によって金剛杖をつきそらせ、それへ体を縋らせながら、そう金地院範覚は云った。

「変なものとは変なものよ。それがハッキリわかるほどなら、変なものとは云いはしない」

姥の声は不機嫌そうであった。

櫓の部屋は広く頑丈で、正方形に出来ているらしく、床も天井も組細工で、壁には窓や狭間があって、格子がはまっているらしかった。

が、今は芯を細めた、一基の燭台の幽かな光が、わずかに四辺一間四方ぐらいを、明るめているばかりだったので、その光の輪の中にはいっている、範覚の姿と姥の姿と、姥の膝の前の床の上に、水を湛えて置いてある。白い陶器の円い水盤とが、ぼんやりと見えるばかりであった。

水盤の面は燈光を受けて、磨いた銅板のそれのような、気味の悪い光に輝いていた。

でも、そこには物の像など、何も映っていなかった。

で、範覚は首をのばし、水盤の面を凝視したが、

「わしには何も見えぬがのう」

と、云った。

「何が凡眼に見えるものかよ」

と、すぐに姥はセセラ笑うように云った。

「わしの眼にだけ見えるのじゃ」