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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

(可憐とおっしゃった、この呉服を可憐と)

庭の一所に陽溜りがあって、そこだけ雪がとけていて、笹の葉が微風に揺れている。その側の梅の古木の根もとを、みそさざいが一羽行ったり来たりしている。

いつもひとりで寂しそうに、こそこそと忍び歩くこの鳥は、心に充たされない何物かがあって、それを求めて侶と離れて、探し廻っているかのようであった。

呉服のこれまでの心持ちが、そっくりそれに似かよっていた。

心に充たされない何物かがあって、たえずそれを求めていた。

若い先達に逢ってからは、その何物かの何んであるかが、やっと呉服にはわかって来た。

恋だった!

日一日と呉服の心へは、若い先達への愛慕の情が、増し、強まり、※(「火+稻のつくり」、第4水準2-79-88)をあげて来た。

(でも、何んと云い出せよう)

言葉にも行為にも出だすべき術を、まだ彼女は知らなかった。

「先達様」

と、呉服は云った。

「いいえ」

と、すぐに自分で消した。

「可憐と……わたしを……ほんとうに可憐と?」

「…………」

先達は微笑してただ見詰めた。

と、不意に何気なさそうに云った。

「そなたのお父上は竹原入道殿、この地方では有名なお方、お健かでござるかな?」