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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

――少し酔ってもいるようであったが、それよりも家を久しくあけて、遊びほうけて来た心のひけめを、喋舌ることによってごまかそうと、大弥太はむやみとまくしたてるのであった。

暦をのせた塗りの小机を、しずかに横へ押しやって、側に立っている燭台に火を、少しかき立てて明るくし、蓬生はつくづくと良人の顔を、少し涙ぐんだ眼で見詰めたが、

「お父上ご病気ともご存知なく、二月に渡って、うかうかと他国へさまよい歩かれたあなた、何んと申してよろしいやら……」

「ナニお父上ご病気とな※(感嘆符疑問符、1-8-78)」

輪廓はさすがに端麗ではあるが、荒んでいるため卑しく見える顔へ、驚きの色をにわかに浮かべ、大弥太は声をはずませて云った。

「ご病気とな? ご大病か?」

「ご大病もご大病、ご乱心あそばされたのでございます」

「乱心! それじゃア気違いだな!」

「それもあなた様のお身の上を案じて……」

「俺ア昔から気違いは嫌いだ」

「ご乱心なされたのでございます」

「ナーニ、俺としてもそういう親心や、お前のおろそかでない志に、まったく盲目というのではない。が、ただ俺としては狭くるしい、この十津川などに埋ずもれて、豪族でござるの土豪でござるのと、いわば井の中の蛙となって、一生を終わってしまうのが、どうにも我慢が出来ないのさ。