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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
でも誰もが竹の杖の先の、血粘に気のついた者はなかった。
「兄上参ろうではございませんか」
これも群集にまじりながら、立て札を見ていた一人の武士が、もう一人の武士へこう云った。
「参ろう」
ともう一人の武士は答え、誰にともなく突き殺された、地頭の召使いの死骸をかこんで、立ち騒いでいる人々から離れ、野路の方へ足を運んだ。
兄弟らしい二人の武士は、きらびやかな風をしていたが、二人ながら深い笠で、その容貌をかくしていた。
やがて二人は芒の原へ出た。
嶮しい山々に囲まれながら、起伏して拡がっている芒の原は、小松を雑えて青味立ち、ちょろちょろ水をところどころに流し、鶺鴒や山鳥の飲むにまかせていた。
ときどき雉子の啼き声がきこえた。
「右源次」
と兄らしい方の武士が云った。
「考えなければならぬのう」
「はい。……何んでございまするか?」
弟らしい武士は訊き返した。
「何んでございますかといったところで……いや、何んでございますかではないよ。……大塔宮様は我が家におられる。……で、我らどうとも出来る」
「はい。……さようにございます」
「お父上にはあのとおり、……戸野の小父様にもあのとおり、大変もない熱心さをもって、ご奉公申し上げてはいるけれど……」