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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
「どなたにかおいででござりまするかな? おいででござらばお情けをもって、この哀れな裏切り者を、大塔宮様のご前まで、なにとぞご案内くださりませ。……許すとのお言葉をうけたまわりたさに、比叡山から赤坂から、熊野からこの地へまで、お後慕うて参りましたもの。……この館に宮様おわすと知り、お眼通りいたしたく存じながら、日夜にご警護きびしければ、今日まで希望とげがたく……しかるに今夜は館の警護、はなはだ手薄く存じましたれば忍び入りましてござります。……お情にご案内くださりませ」
云い云いまたも耳傾けたが、
「ご返辞がない。……誰もいぬそうな」
ソロソロと歩き出した。
宮家はその後を眼で追いながら、
(裏切り者だと云ったようだが。……どういう意味の裏切り者か? ……それにしてもわしの後を慕って、比叡山から赤坂、熊野と、この土地へまで来たとは気の毒、話して事情を訊ねるとしよう)
宮家は声をおかけになろうとした。
しかしその時足音がして、誰か走って来るようであった。
で、宮家は振返り見られた。
村上彦四郎が走って来ていた。
「宮」
と近寄ると囁くように云った。
「一大事! ……なにとぞこちらへ!」