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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
ふてぶてしく胸に腕を組み、鼻を反らせて月を仰ぎ、そう大弥太は昂然と云った。
「が、まだ時刻は少し早い。……宮様ご一行寝しずまるまでは、手控えした方がいいようじゃ」
この大弥太は妻の蓬生が、自分の巧らみを大塔宮様に、お知らせしたとは気がつかず、昨夜定遍よりの手の者を率い、宮様を襲うべく竹原館へ、ひそかに寄せて行ったところ、右源次が殺されてい、宮様ご一行は館をぬけ出し、立ち去られた後であった。
大弥太は切歯して口惜しがったが、姦智にたけた男だったので、性急に追いかけ討とうとはしないで、遥かに離れて後をつけた。
芋ヶ瀬の郷での出来事なども、彼は人の噂で知った。
この道へ宮様の反れられたことも、往来の者に聞いて知った。
で、樵夫小屋をつきとめたのである。
「休もうぜ」
と、大弥太は云って、藁鳰を背にして胡座をかいた。
「うむ」
と、憂鬱に云いながら、左源太も並んで坐り込んだ。
梟の声がしきりに聞こえ、星が尾を引いてしばしば流れた。
「恩を仇じゃ、な、まるで」
と、大弥太はまたも、けしかけるように云った。
「わしが父や入道殿に、宮家ご一行は養われていたのじゃ。……それだのに右源次を殺して去んだとは」