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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
大蔵ヶ谷右衛門は、裏庭から館の裾を巡り、前庭の方へ歩いて来た。
(浮藻様はおいでなされぬ。小次郎めもいないようだ)
大鉞が薄白く、その刃を月光に光らせていた。
「変だ」
と呟いて門の方を見た。
「潜り戸が開いている」
で右衛門は潜り戸をくぐり、館から外へ歩み出た。
人っ子一人通っていない、森閑と更けた夜の中に、館の築地が延びていた。
その築地を左へ曲がった。
と、行く手に一人の山伏が、女を小脇に抱えながら、向こうへ歩いて行く姿が見えた。
何がなしに気にかかり、右衛門は小走りに走り寄ったが、
(あッ、浮藻様だ! 山伏は範覚!)
「待て範覚!」
と大音に叫び、豹のように躍りかかった。
「誰だ※(感嘆符疑問符、1-8-78)」
と浮藻を小脇に抱えた、金地院範覚は振り返ったが、
「や、わりゃア右衛門か!」
「汝が汝が浮藻様を!」
「授かったのだ! 貰って行く!」
「黙れ!」
鉞を振り込んだ。
「どっこい!」
ひっ外して範覚は、十数間ひた走り、
「右衛門、おさらば、いずれ逢おう!」
「待て!」
ビューッと鉞を投げた。
金剛杖を片手で振り、その鉞を刎ね飛ばし、
「うんにゃ、俺は待たねえことにした!」