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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

美しき妻

美しき妻

この時東の空の裾が、暁の色に染められて、あたりが仄かに明るくなった。

と、奇蹟が行われた。

猛り立っていた鬼火の姥が、その暁の水色の光に、照らし出された小次郎の姿――類まれなる美貌を見るや、振りかぶっていた戒刀を下げ、眼を細くし、口をあけ、二、三歩ヨロヨロとよろめいたが、恍惚とした表情で、

「人間か? ……男か? ……さてもさても! ……美しいのう! 美しいものじゃ!」

と、譫言を云ったことである。

呪咀も、予言も、闘志も、魔力も、姥からことごとく失われたようであった。

厭らしい、穢い、好色無慚の、鬼火の姥のこの様子には、頼春も小次郎も呆気にとられ、むしろ戦慄をおぼえて来た。

頼春の危険を助けようとして、馳せつけ身を挺した小次郎は、刀も抜かず背後へさがり、身をそむけ眼をそらし、頼春は差しつけた刀を引いて、これは憎悪の切歯をした。

姥は小次郎を見詰めたまま、今度はフラフラと寄って来た。

「さわらしてくだされ、抱かしてくだされ! ……姥の通力やぶれてもよい! ……本望じゃ、さわらせてくだされ! ……柘榴のようなその唇へ、練絹のようなその頬へ!」