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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

小次郎がこの館へはじめて来た時、弓の折れの鞭をひっさげて、例の稽古をつけていた男が、この大蔵ヶ谷右衛門なのである。

「……ウナイ男に慕われて、もう一人の男にも慕われて、どっちへも行けずにママのテコナは、真間の入江へ身を沈めて、若い身空を死んでしまったんですものねえ、テコナはほんとうに可哀そうよ」

いろ紙で雛を折りながら、そう浮藻は小次郎へ云った。

「はあ」

と小次郎は返辞をした。

「阿呆な女とも云えますなあ」

滑らかな細い浮藻の指先が、器用に動くのをうっとりと見ながら、小次郎は云いつづけた。

「もう少し気の利いたやり方だって、ありそうなものに思われまするがなあ」

「どうして?」

と浮藻は眼をあげた。

不平そうな色が眼に出ていた。

「二人の男を順番に取って、二人ながら満足させ、自分でも満足するという法など……」

「小次郎や」

とたしなめるように、今夜は不思議と女らしく、膝の上へ派手やかな縫い物を置き、針をはこばせていた桂子が云った。

「娘に頬を染めさせるようなことは、なるべく謹んで云わない方がいいよ」

「はあ」

「小次郎や」

とまた桂子は云った。

「すこしわたし苦になっているんだよ」