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オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

「文学界」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页

青空文庫

しかし色んな事で上気してしまっているぼくには、話といっても別に出来ませんでした。が、その翌日の地方版をみると勇ましく片手を挙げたぼくの写真の下に、≪坂本君は語る≫として次の様な記事が出ていました。

≪オォルの折れる迄、腕の折れる迄もと思い全力を挙げて戦って参りましたが武運拙なく敗れて故郷の皆様に御合せする顔もありません。只、心配なのは今度の戦績で、今後日本人がボオトに於て、果してどれだけの活躍が出来るかと危ぶまれることです。この上は、四年後のベルリンに備えて、明日からでも不断の精進を続け、必ず今日の無念さを晴らしたいと存じます≫

ぼくは、ぼくの気持通りに書いてくれた、記者さんの御好意に感謝はしましたものの、今更のようにジャアナリズムの魔術に呆れたものです。ぼくの寸言も真実、喋ったものではありませんでした。

さて、横浜に着く迄に、あなたに訊いておきたかった一言は、やはり、「あなたはぼくが好きですか」でありました。その返事を聞けなかった事がぼくの心残りだと、この手記の始めに思わせ振りに書いて置きました。然し、聞いたからとて今思えばなんになろう。今になって残っているのは言葉でも肉体でもなく、ただ愛情の周囲を歩いた想い出だけです。