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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
しばらく唖然と突っ立っていたぼくは、折から身体を押して行く銀座の人混みに揉れ、段々、酔いが覚めて白々しい気持になるのでした。もうそのまま、帰りたくもなりましたが、皆で来ているのでそれもならず、再び店内に入ると、もはや、ほろ苦くなった酒を呻るのも止めてしまった。間もなく、マスタアが出て来て、「お写真をとらせて下さい」という。酔払った連中は、二つ返事で銘々美女を相擁し、威勢よくシャムパングラスを左手に捧げ立った処を、ポッカアンとマグネシュウムが弾けて一同、写真に撮られてしまいました。
所詮、だらしのないぼくが、そんなにも女色が嫌いだったというのは偏えに、あなたからの手紙の御返事を待っていたからです。
県人会でお逢いした翌日、ぼくは横浜へ着いた日に撮ったあなたの写真を、すぐあなたの寄宿舎のほうへ送っておきました。勿論、あなたの御迷惑を考え、あっさりした御手紙を添えておいたのですが、きっと返事が来るだろうと信じていました。返事が来れば、それからお付合をして、或いは結婚が出来るかとも思っていました。
ぼくはその夏、鎌倉の家へ行っていました。
毎日、夕暮になるとあなたからの手紙が廻送されているような気がして、姉の子をおぶい、散歩に出た浜辺から、祈るような気持で、姉の家に帰って行ったものです。