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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
二
二
あなたにとってはどうでしょうか、ぼくにとって、あのオリムピアへの旅は、一種青春の酩酊のごときものがありました。あの前後を通じて、ぼくはひどい神経衰弱にかかっていたような気がします。
ぼくだけではなかったかも知れません。たとえば、すでに三十近かった、ぼく達のキャプテン整調の森さんでさえ、出発の二三日前、あるいかがわしい場処へ、デレゲェション・バッジを落してきたのです。
モオラン(Morning-run)と称する、朝の駆足をやって帰ってくると、森さんが、合宿傍の六地蔵の通りで背広を着て、俯いたまま、何かを探していました。
駆けているぼく達――といっても、舵の清さんに、七番の坂本さん、二番の虎さん、それに、ぼくといった真面目な四五人だけでしたが――をみると、森さんは、真っ先に、ぼくをよんで、「オイ、大坂、いっしょに探してくれ」と頼むのです。ぼくの姓は坂本ですが、七番の坂本さんと間違え易いので、いつも身体の大きいぼくは、侮蔑的な意味も含めて、大坂と呼ばれていました。
そのとき、バッジを悪所に落した事情をきくと、日頃いじめられているだけに、皆が笑うと一緒に、噴き出したくなるのを、我慢できなかったほど、好い気味だ、とおもいましたが、それから、暫くして、ぼくは、森さんより、もっとひどい失敗をやってしまったのです。