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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
出発の前々夜、合宿引上げの酒宴が、おわると、皆は三々五々、芸者買いに出かけてしまい、残ったのは、また、舵の清さん、七番の坂本さん、それと、ぼくだけになってしまいました。ぼくも、遊びに行こうとは思っておりましたが、ともあれ東京に実家があるので、一度は荷物を置きに、帰らねばなりません。
その夜は、いくら飲んでも、酔いが廻らず、空しい興奮と、練習疲れからでしょう、頭はうつろ、瞳はかすみ、瞼はおもく時々痙攣していました。なにしろ、それからの享楽を妄想して、夢中で、合宿を引き上げる荷物も、いい加減に縛りおわると、清さんが、「坂本さん、今夜は、家だろうね」とからかうのに、「勿論ですよ」こう照れた返事をしたまま、自動車をよびに、戸外に出ました。
そのとき学生服を着ていて、協会から、作って貰った、揃いの背広は始めて纏う嬉しさもあり、その夜、遊びに出るまで、着ないつもりで手をとおさないまま、蒲団の間に、つつんでおいた、それが悪かったんです。はじめから、着ていればよかった。
運転手と助手から、荷物を運び入れてもらったり、ぼくは、自動車の座席にふんぞりかえり、その夜の後の享楽ばかり思っていました。