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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
ぼくみたいな男でも、かりにも日本の Delegation として戦うのだ。自分の全力の砕けるまで闘わなければ済まない。恋なぞ、という個人的な感情は、揚棄せよ。それが、義務だという声もきこえる。それより、ぼくも棄てたいと望んでいる。が、そう考えているときのぼくに、はや、あのひとの面影がつきそっている。あのひとが、そう一緒に望んでくれる、と思うのだ。
これからのぼくは、一心に、あのひとを、どっかに蔵い込もう。日本に帰る日まで、一個人に立ち返れるまで、とこの言葉を呪文として、ぼくは、もう、あのひとの片影なりとも、心に描くまい≫
そう書いた、次の日の日記に、
≪かにかくに杏の味のほろ苦く、舌にのこれる初恋のこと≫
もっと、ここに書くのも気恥かしいほど、甘ったるい文句も書いてありました。で、ぼくは大切に、一々トランクの奥底にしまい込んでいたのです。
ところが、ある日の午後、例によって、ベッドから、脚をぶらんぶらんさせ、トランクを台にして日記を書いていると、いま外に出たばかりの松山さんと沢村さんが、カッタアシャツ一枚で、ぬッと入って来ました。
ぼくは、あなたのことを、感傷的な形容詞で一杯、書き散らしていたところですから、なにか照れ臭く、まごまごすると、慌てて手帳をベッドの上の網棚に、抛りあげ、そそくさ、部屋を出て行き