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オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

「文学界」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页

青空文庫

と、坂本さんが、ぼくの肩を叩き、「秋子ちゃんからじゃないか」と笑いながら、言います。皆の顔が、一瞬、憎悪に歪んだような気がしました。我慢できないような厭らしい沈黙のなかで、ぼくは手紙を受取ると、そのまま、宿舎に入り、便所に飛びこんで、鍵を降しました。

風呂場と兼用になっている、その部屋で、ぼくは冷っこい便器に、腰を掛けると、封筒を裏返してみました。ただ、K生より、となっています。ぼくはてっきり、あなたからだと信じこみ、胸躍らせ、封を切る手も、震わせ、読み下して行くと、なんだ、がっかりしました。と言っては悪いでしょう。船で知り合った、中学の先輩、Kさんからの親切な激励状だったのです。再び、表の芝生にでた、ぼくの顔は蒼褪めていたかも知れません。坂本さんから、また、「大坂、顔色変ったね」とひやかされました。

二三日経って、午後の練習を終え、ヘンリイ山本君の運転する、ロオドスタアの踏段に足を載せ、合宿まで、帰ってくると、庭前の芝生に、花やかな色彩を溢れさせた、女子選手の人達が、五六人、来ていて、先に帰ったクルウの連中に、囲まれ、喋り合っているのが、ハッと眼につきました。