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オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

「文学界」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页

青空文庫

十五

十五

翌日、練習休みで、近くのゴルフリンクへ一同でピクニックに行きました。

前夜、眠られぬ頭は重く、涯しないみどりの芝生に、初夏の陽の燦然たる風景も、眼に痛いおもいでした。

東海さんが、顔馴染のフォオド会社の肥った紳士に、ゴルフを教えてもらい、なんども空振りをして、地面を叩く恰好を面白がって、みんな笑い崩れていましたが、ぼくにはつまらなかった。

みんな、写真機を買いたてで、ぼくも金十八弗也のイイストマンを大切に抱えていましたが、なにを写す元気もなく、ぼんやりしている処を、あべこべに何度も写されたりしました。

結局、朝から夕方まで、ぼんやり坐ったり歩いたりしただけで、帰ってきました。帰ってからポケットにふと、手を入れると、全財産百五十弗ばかりを入れた蟇口がありません。

ぼくは忽ち逆上して、身体中や其処らを探しまわった揚句の果は、恐らく、ゴルフ場で落したに相違ないときめてしまいました。百五十弗は、当時の為替率で、四百五十円位にあたります。素人下宿をして働いている、母の粒々辛苦の金とおもえば居ても立ってもおられず、明朝、未だ皆の起きないうちに抜けだし、ゴルフ場まで探しに行こうと思いました。