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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

五

おしのは息を止めた。

「それで浅草の浄念寺へ、蘭方の医者とかってのを伴れてゆき墓を掘り起こして骨をしらべたっていうわけです」

「ちょっと待って」おしのは遮って、眼をつむり、暫くなにか考えていたが、「いいわ」とやがて云った、「あんた神田川の船市を知っているわね」

「船宿ですね、ええ知ってます」

「これからあそこへいっていてちょうだい」

「どうするんです」

「あたしもあとからすぐいくわ」とおしのは云った、「いってから詳しい話を聞きましょう、相談しなければならないこともあるのよ」

「だって病気に障りゃあしませんか」

「たかが風邪をこじらせただけじゃないの」おしのは枕の下から紙入れを出し、なにがしか包んで佐吉に与えた、

「あのうちに弥太っていう船頭がいるから、屋形船の支度をさせておいてちょうだい、お酒や肴も忘れないように頼んでよ」

佐吉は承知して立ちあがった。

五

「いそがなければならない」とおしのは独り呟いた、「いそがなければ」

骨をしらべてなにがわかるか、おしのには見当もつかない。けれども、なにか決定的なことがあばかれるような気がする。青木はおしのが誰かに殺されたと思っているそうだ、そこまで辿ってくれば、事実があらわれるのは遠いことではあるまい。