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ようちゅう
妖虫
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页
「ホホホホホ、赤蠍はちゃんと約束を守りましたわね」
殿村夫人の気違いめいた上ずった声だけが、甲高く響いた。
「みなさん、あの血を誰の血だと思召す。云うまでもありませんわね。で、如何でございますの。時間が一秒でも違いましたでしょうか。三笠さんはお偉い探偵でいらっしゃいますけど、これ丈けは防げませんでしたわね。赤蠍はやっぱり勝ちましたわね。ホホホホホ」
言葉丈けはいやに鄭重であったけれど、その言葉の内容は悪魔の呪いそのものであった。そればかりでなく、殿村夫人の容貌は、僅かの間に、まるで別人のように変っていた。彼女は今や正体を暴露した妖魔そのものであった。顔中に何とも云えぬ醜悪な皺が刻まれ、殊にその欠唇は異様なけだものの様に醜く見えた。
それにしても、何という奇妙な殺人手段であったろう。大蠍の鎧に包んで、品子さんを誘拐したと見せかけた、その又裏があって、実はあの蠍の中は空っぽであったのだ。そして、縛り上げ、恐らくは猿轡をはませた品子さんを、御丁寧にも天井裏へ運んだのは、あの二人の偽刑事の仕業に極まっているが、今品子さんを惨殺して血を流した曲者は、一体何奴であろう。