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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
「私にはかくべつ才能もございませんし、出世をしたいという欲もございません、薬草をいじるくらいが、ちょうど分相応ではないかと思います」
「それだけですか」
いきなり、こう云いながら、千之助が庭からあがって来た。半之助は気づかなかったが、いつのまにか戻って来て、それまでの問答を聞いていたらしい。
「理由はそれだけですか」
こう重ねて云いながら、半之助の脇へどっかりと坐った。
「そうじゃないでしょう」
「なにが……」
「御役替えの理由ですよ」
半之助は当惑した。冲左衛門だけなら、ひたあやまりにあやまって済ませる。そのくらいの自信はあるが、この人物が出るとむずかしい。
――気をつけないと不愉快なことになるぞ。こう思いながら、それでもできるだけ穏やかな調子で、云った。
「なんだか、私にはわけがわからないが、役替えの理由とは、どういう意味なんだ」
「それはこっちで訊いてるんですよ、もちろんあらましのところは調べ済みですがね」
「ぜんぜんわからないね、云うことが」
「ふしぎですねえ」千之助は冷笑した、「村田なにがしや、青山なにがしは貴方の親友でしょう、絶えず往来をしているし、お互いに深い連絡があるじゃありませんか、それでなにも知らないなんて云ったって、信じられやしませんよ」