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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

二

「これはいったい、どういうわけですか」

半之助は冲左衛門を見た。

「私には彼の云うことがさっぱりわかりません、お呼びになった御用がよろしければ、帰らせて頂きます」

「いいだろう、但しひと言、云っておくが」

冲左衛門は、きめつけるような口ぶりで、だがいやにゆっくりと云った。

「かねて申し入れのあった、佐枝との縁組は、わしも佐枝も不承知だから、ここではっきり断わっておく」

「――はあ」

「それから、いかがわしい人間との往来は慎むがよい、さもないと身の破滅だぞ」

半之助はむらむらと怒りがこみあげてきた。いかがわしい人間とは誰をさすのか、なにがいかがわしいのか。そう反問したくなった。しかし、そこにいる千之助の、皮肉な、刺すような表情を見て、穏便に、という主馬の言葉を思いだし、「ではおいとま致します」と低頭して立った。

二

「今の、谷町の忠告を軽蔑しないほうがいいですよ」

玄関までついて来て、千之助が、意味ありげにそう云った。

ふり返った半之助は、彼の眼が敵意ではなく、勝者のような、一種の誇らしげな、こちらを見下すような、光りを帯びているのをみて、急に気が軽くなり、微笑がうかんだ。