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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

「いや大丈夫、その点は保証しますよ」

主馬はひとつ頭をさげた。

「要約すればですね、村田にはそういう使命もあるが、同時に各地の、植物分布と、薬用草木の調査という仕事がある、それはどこまでも現実にやらなければならない、だから、彼の採集した草木の根や種子を、薬園へ移植し、栽培する者が必要でしょう、なぜなら、ときには珍種と称して送って来るものが、ただの雑草だというばあいもありますからね」

「ははあ……」

「そんなときには、適当に始末する者がいないと、ぐあいが悪いわけですよ」

「共謀者だが幇助罪というところか」半之助は盃を持ったまま、「忍耐をするのにいい話というのを、聞かせて貰おう、さもないとおれは」

「話すよ話しますよ、とにかく一杯、まあどうぞ、私も二三杯やらないとね」

彼は手酌で三杯ほど飲んだ。

「これは安倍だけにしか話せないことなんですがね、ことによると忘れたんじゃないかとも思うが、稲垣のしほという娘のことを覚えていないかね」

「稲垣の、しほ……」

こう云って、すぐ思いだして、半之助はわれ知らず微笑した。

「ああ覚えているね、主馬の熱烈な恋人だったろう」

「熱烈な恋人はいいけれど、なぜそんな妙な笑いかたをするんです」