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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

のである。

此処におちついてからすぐに、彼は「ほっほう……」という、あの呼び声を聞いた。

山に谷にこだまする、透明な、柔らかいその声を、初めのうちは、郭公鳥かと思った。ついで、「丸茂」の裏で聞いた声と、よく似ていることに気づいた。そして、それは鳥の鳴き声ではなく、若い女の声だとわかったが、かくべつこだわる気持はなかった。江戸と此処では、あまりに距離が大きすぎるし、「丸茂」の豪奢さと、人煙も稀なこの山奥とでは、どうむすびつけようもないほど、条件が違いすぎていた。

四月にはいって、今から約五日ほどまえに、その声のぬしと出会った。

半之助はちょうど、岩の食卓で、昼餉を喰べているところだった。下の林のほうで、がさがさと叢林の揺れる音がし、人の声が聞えた。猟師でもあろうか、と思っていると、森の中にある細い渓流の向うへ、いきなり彼女が現われたのである。

いつのまに、そんな処まで、登って来たのか、その早いのと、物音のしなかったのとで、半之助はまさしくぎょっとした。彼女のほうでも、びっくりしたらしい、ぴたっと立ち停って、眼をみはり、口を少しあけて、じっとこちらを見まもった。