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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

冲左衛門は露骨にいやな顔をした。客たちの焼香がすっかり済み、方丈で挨拶をしてからゆくように、なおまた、接待の宴にまにあうように帰れ、と命令するように云った。

そのときは半之助もむっとし、――貴方はいったい誰ですか。と、口まで出かかった。

「しかし云わなくてよかった」

寺から出ると、彼はこう呟いて、思わず独りで微笑した。谷町の本当の目的がどうあろうと、亡父の法要のため、尽力して呉れている、ということは、事実だったから。

「云うべきときはほかにあるさ」

そう独り言を云ったが、なにやら気負っていることに気がついて、半之助は自分でてれてしまった。

山村座は木挽町五丁目にある。歩いて小半刻。少し風立ってきたし、雲がひろがっているのに、気温の高さは少しも変らず、ゆきついたときには、すっかり汗になっていた。

茶屋は三十間堀の河岸に面していた。芝居小屋が本建築になり、桟敷や桝などが出来てから、観客の風俗も変って、一種の社交場、宴席といったふうな感じさえ、あらわれだした。殊に二階の桟敷には、富商の子女や、身分ある武家や、御殿女中なども来て、前には御簾を垂れ、屏風をまわしたりして、きらびやかに、酒もりなどをするさまが、よくみられた。