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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

四

四

「まだ建ててから幾らも経たないな」

座敷へ通されるとすぐに、あたりを眺めまわしながら、半之助が云った。

「せいぜい一年だろうね」

主馬はそう云って、どこかへ出ていった。

必要以上に樹の多い庭も、凝った好みの建物も、まだごく新しい。家は二階造りで、木は、すべて檜だろう、拭きこんだつやも美しいし、まだかなりつよく木の香が匂う。雲母摺りの本間の襖には、秋草をあしらった、虫取りの美人の図が描いてあり、四枚つづきの、線のたっぷりした、なよやかな筆つきであるが、みると、菱川師宣という、町絵師の名が書いてあった。

床の間にも、遊女らしい美人の、湯あがりとみえる姿の軸があるが、こちらは皮肉なことに、狩野英信と署名してあった。英信は木挽町に住む、いわゆる御殿絵師で、狩野派のなかでは秀抜と評が高い。たわむれに描いたのだろうが、そんな俗めいた絵のうえに、平気で署名し、遊印まで押しているのは、なにかしら反抗的な感じで、頬笑ましかった。

半之助は、これらを見まわしているうちに、柱や長押の、釘隠しに、ふと注意をひかれた。鉄か青銅のような金具で、菱を三つ合わせたような、かたちをしていた。