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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

――なんだったかしらん。

どこかで見たような気がし、考えたが、すぐ思いだせそうでいて、思いだせなかった。

――たしかに覚えがある。

ぼんやりと、そんなふうに考えていたとき、庭のほうで、ほっほう、という、さっきの叫び声がした。

「ほうほう、ほっ……」

筒をぬけて来るような、まったく耳馴れない叫び声である。

庭の樹立は、傾いてきた西日をあびて、暗いほど繁った枝葉をさしかわしている。前坪は掃除のゆき届いた土で、踏石が樹立のほうへと続いているきり、やはり人の姿はみえなかった。叫び声はそれなり途絶えた。

半之助は扇をつかいながら、夕づいてゆく空を見あげていた。すると、ふいに、気持のいい弦音とともに、ひゅッ、と矢羽根の空を切る音がし、庭の樹の梢あたりで、すさまじい鳥の悲鳴が起こった。

――あの声が射止められた。

半之助は一瞬そう感じた。

もちろんそうではなかった。矢に射抜かれた白鷺が一羽、ばたばたと落ちて来て、樹蔭の暗い地面の上で、むざんに綿毛をちらすのが見えた。そしてこの家の、右奥のほうから、浴衣に無腰の侍が一人、なにやら笑いながら出て来て、「それみろ、鷺だ」