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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
三
時を得て燃えさかる勢いは、じっさいにもっている力より外へはみ出たがるものです、そして、それは火口さえあればいいのです」
三
権之丞はたじろいだ。
登世の云うことは、さして驚くには当らないかもしれない。その思いつきも、かなり常識的で、決して奇矯なところなどはない。しかし、彼女の顔つきや、声の調子には、そのすじみちのとおった言葉とは逆に、やや狂気にちかい、異常な緊張が感じられた。
なにかがのりうつった。
冷たい手で、うしろ首を撫でられでもしたように、権之丞はちょっと息をのんだが、すぐに、はね返すような口ぶりで、「それにしても、柳沢侯は栄達の頂点に、おられる方ではございませんか、それを賭けてまで、危険な企てに乗るということがございましょうか」
「栄達の頂点にいるからです、あの方の栄達は例のないほどのもので、しかもすべて五代さま(綱吉)おひとりの御偏愛によるものです、したがって敵が多く、それが反柳沢という一つの勢いになって、相当つよい力でひろがっています、五代さまはすでに御老齢でもあり、お世継ぎは御養子で、それも壮年の甲府宰相さまですから、将軍家にもしものことがあれば、柳沢一族の運命は、おそらくひとたまりもないでしょう」