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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
……登世は接待のさしずをするだけで、殆んどかれらの席へは出ない、吉保とはまだ会ったこともない。けれども、かれらの会合のようすや、密談の内容は、いつものがさず聞いていた。
かれらの策謀の一は、将軍継嗣の排斥であった。甲府侯綱豊という人は、その祖父に当る三代家光の気性をうけているといわれ、頭もすぐれているし、果断と勇気に富むそうである。しかも、将軍世子になったのは宝永元年だが、そのときすでに、四十二歳であった。
綱吉は館林家の出であって、甲府家とは、血続きであるには、相違ないけれども、親子としての情はもちろん無かった。
単に親子の情がなかったばかりではない。
殺生禁断という、未曽有の悪法令を出したほか、日常の起居進退が、極端なくらい臆病で、迷信狂癖の多い綱吉に比べると、綱豊の性格は殆んど対蹠的である。したがって、彼が六代を継いだばあい、どのような施政改廃がおこなわれるか、およそ推察することができるであろう。
平安朝の藤原氏にも似ていようか、家格のことはべつとして、吉保は小身者から出世しながら、表高の倍も実収のある領地を与えられた(甲斐領その他で、実高三十三万石余といわれる)。