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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

老中筆頭でありながら、大老の呼び名さえ受け、徳川の家門に列せられた。また閨閥をひろげて、その一族はみな、枢要の地位を占めている。……これだけ繁栄している柳沢氏が、指をくわえて、綱豊を迎える筈がない。かれらは百方奔走した。そして、その反面では、一族の潰滅に備えて、或る種の謀計が、めぐらされていたというのである。

宝永二年には銀相場に規格を与え、値上りを禁じたうえで、ひろく、蔵匿された古金銀の運用を命じ、これらを以て、宝永銀という新銀貨を鋳造した。ついで諸侯の領内における、藩札の流通を禁じ、その貯蔵する古金銀を、新鋳のものと交換するように、布令を出した。また貨幣の鋳造は、金座、銀座、銭座といって、その「座」の担当者に限られているのに、甲府城で小判小粒(金貨)の鋳造が許されたが、これらは、新鋳貨によって浮いた金銀を、すべて柳沢一族が横領したものである。という流説がしきりだった。

「登世はこの眼と耳とで、こういう事実を知ったのです」

唖然としている権之丞に向って、登世はさらにこう続けた。

「今年になってからは、甲府城の武具更新の名目で、多くの銅鉄や、必要な資材、工匠がたくさん江戸から送られています、そして甲府では、殺生禁断の法に乗じて、領内の住民から弓矢、猟銃を押収し、馬を集め、穀物の貯蔵をいそいでいる、とのことです