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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
権之丞は思わず、高い声をあげた。それは、眠っている者を、呼びさますような調子だったが、美しい登世の顔が、美しいために凄くみえるほど、異様に緊張し、硬くひきつるのを見て、こんどは哀訴するように云った。
「それでは、乙女さまをお呼びになったのは、その舞をおさせ申すためでございますな」
「登世がしてを舞います」
ああ、と権之丞は、声をふるわせた。
「柳沢侯は数寄のお方で、お眼にとまる者は必ずお部屋にお入れなされ、やがて将軍家の伽におすすめなさる、ということではございませんか」
「そうなればなお、強い大きなてづるが掴めるでしょう」
「貴女は狂っておいでなさる、われらにとって、徳川はもと敵ではございませんか、仮に御再興の兵を挙げるとしても、めざす敵はやはり徳川でございましょう、いかに苦肉の策とは申しながら、当の敵に御自分から妹姫をおすすめなさる、さようなことで名分が立ちましょうか、七百年連綿たる、みどう家の誇りをどうなさるおつもりですか」
「恵林寺さまの御遺志は、御再興の事ただ一つです」
登世は叫ぶように云った。
「これまで便々と時を消し、あたら有る機会をのがして来たのは、みな名分や誇りなどにとらわれていたからです、まず兵を挙げ、御再興の目的を遂げれば、名分や誇りなどはりっぱに立つでしょう、しかも、こんどはその最後の機会です